J. D. サリンジャーの作品電子書籍化決定

これを文学的事件と言わずして何を文学的事件と言うのか!
8月11日付電子版New York Times紙 (以降NYT紙) に ”J.D. Salinger, E-Book Holdout, Joins the Digital Revolution” という記事が掲載された。

 

J. D. サリンジャーの作品が電子書籍で読める!しかも新作が50年ぶりに出版されるなんて!これは大事件である。


”The Catcher in the Rye” や “Nine Stories” も電子書籍化が決まった。実に喜ばしい。さらに、父親の作品をこれまで守ってきた長男(Matt Salinger)が父親の未発表の作品(約50点あるらしい)や手紙を公開すると発表した。J. D. サリンジャーは、2010年に91歳で亡くなる死ぬ直前まで執筆に励み、その数は50点に達していた。

 

NYT紙のインタビュー記事によれば、まず今週、サリンジャーの4作品が電子書籍化される。E-bookで読める作品は、”The Catcher in the Rye” と“Nine Stories” のほか“Franny and Zooey,” “Raise High the Roof Beam, Carpenters and Seymour: An Introduction.だそうだ。


NYT紙 の記者は ”the last 20th-century literary icon to surrender to the digital revolution” と表現しており、われわれ世代の代表的な感想かもしれない (あのサリンジャーもついにデジタル革命の軍門に下るのか…) 。私自身は電子書籍化大賛成である。

 

電子書籍化の次は、ニューヨーク公立図書館主催により作品が展示される。私信、家族写真、The Cather in the Ryeのタイプ原稿(作家自身の手書き修正あり)、その他、16点が出品されるとのこと。
未発表の作品は数も膨大で、今後5年から7年かけて徐々に発表されるという。

J.D. サリンジャーは人前に姿を見せないことで有名だったが、徹底したインターネット嫌いでもあったらしい。Facebookについて説明しようとした息子にひとことhorribleと言ったとか。
息子から見てもとにかく頑固で疑い深い人間だったようだ。しかし、未発表の作品はいつか出版するつもりでいたとも息子は明かした。

 

父の遺志を守ることと読者の要望との間でサリンジャーの長男は葛藤してきた。
ある高齢の女性(80歳代)は「自分が生きているうちになんとかサリンジャー作品の出版をしてほしい」と手紙で訴えてきたが、これには息子も心を動かされたようだ。そもそも彼が電子化を考えるようになったきっかけは、ミシガン州に住む女性からの手紙だった。その女性は体にハンデを抱え、紙の本を読むのは難しかったという。さらに今年旅行で訪れた中国で多くの若者がスマホやデジタル機器で読書をしているのを目の当たりにしたことも、要因のひとつだった。そして長男はついに4作品の電子化を承諾したという。


長男は最後にNYT紙の記者にこう語っている。「(80歳代の女性から届いた)あのような手紙を父がもし読んだら、やはり心を動かされたでしょうね」
読者があっての文学作品。これは真理だと痛感した。